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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)12223号 判決

原告 千葉トヨペット株式会社

右代表者代表取締役 勝又豊次郎

右訴訟代理人弁護士 内山誠一

同 渥美雅子

同 鶴岡誠

被告 晃和商事株式会社

右代表者代表取締役 牧田達郎

右訴訟代理人弁護士 新庄初一

主文

被告は原告に対し別紙物件目録記載の自動車一台を引渡せ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

一、原告訴訟代理人は主文第一、二項と同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

(一)  原告は自動車類の販売及び修理業を営む商事会社であるが、昭和四二年二月二〇日自動車の販売及び部品等の小売等を業とする訴外鯉和自動車株式会社(以下訴外会社という)に対し、右営業の目的に使用するため左記の約定により原告所有の自動車二台を売渡した。

(1)  原告は訴外会社に対し別紙物件目録記載の自動車(以下本件自動車という)の外一台(自動車登録番号千五ぬ一一六三番、車名プリンス、年式及び型式六四~四一〇車台番号四―四一―一一七一七五、原動機の型式G七)の合計二台の自動車を売渡すこと。

(2)  代金及び代金支払方法

右自動車の代金を金五七万円としその代金は昭和四二年三月三一日に支払うこと。なお、右支払金の確保のため訴外会社は右支払金額を額面とし、支払期日を満期日とする約束手形を原告宛に振出交付し、該手形金の支払があったときは右自動車の代金の支払があったものとする。

(3)  所有権留保の特約並びに善管注意義務

右代金完済のときまではその所有権を原告に保留し、所有権移転するまでは訴外会社に自動車を無料で使用させること。

訴外会社は善良なる管理者の注意義務をもって自動車の使用収益をなし原告の許諾を受けることなく売却、賃貸、使用貸借又は他人の権利の目的とする等原告に影響を及ぼすべき一切の行為をしないこと。

(4)  訴外会社が右代金の支払を怠り、又はその他の契約に違反したときは原告は催告なしに自動車の返還又は契約の解除をなしうべきこと。

(二)  右契約に基いて契約成立と同時に原告は訴外会社に対し、右二台の自動車を引渡し、訴外会社は原告に対し約束手形一通を振出した。

(三)  ところが訴外会社は右代金を支払わず、かつ本件自動車の占有名義を被告に移転し、被告において現にこれを占有している。

(四)  右事実のとおり被告は原告所有の自動車を何等の権原なくして使用占有しているものであるが、原告からの引渡請求に応じない。

よって原告は所有権に基き本件自動車の引渡を求める。

と述べ、被告の抗弁に対し

(一)  被告の抗弁事実中、原告と訴外会社との前記売買契約につき、原告が被告主張の如き書類を右訴外会社に交付したことは認めるが、被告主張の如き、商慣習の存在すること及び右売買契約が単純なる売買契約であることは否認する。又、その余の被告の買受関係の事実は不知。

(二)  なお、被告は即時取得を主張するが、本件自動車は道路運送車輛法にいうところの登録をうけた自動車であり、即時取得の目的とはならない。と述べ(た。)証拠≪省略≫

二、被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、

(一)  答弁として、

(1)  原告主張の請求原因第(一)項の事実は、原告が自動車の販売及び修理業を営む会社であること及び本件自動車を所有していたことは認めるが、その余の事実は不知。

(2)  同第(二)項の事実は不知。

(3)  同第(三)項の事実は、被告が本件自動車を占有している事実は認めるがその余の事実は不知。

(4)  同第(四)項の事実は争う。

と述べ、

(二)  抗弁として、

(1)  本件自動車は次のとおり、もともと原告所有のものであったが、原告は訴外会社に売渡し、訴外会社は訴外銭谷政美に対して売渡し、訴外銭谷政美は訴外五味礼三に対して売渡し、被告は昭和四二年三月一五日右五味礼三から金三三万円で買受けた被告所有のものである。

(2)  仮に原告と訴外会社との売買が所有権留保の特約付売買であったとしても、原告は訴外会社に本件自動車を売渡すに当り、所有権移転登録に必要な書類一切すなわち自動車検査証、移転登録申請書、移転登録委任状、自動車申告書、譲渡証明書並びに原告の住所変更に対する変更登録申請書及び委任状、登記簿抄本を交付し、これを転々流通の場においたのである。そして、前記(1)の場合はすべて、右書類と同時になされたものであって、被告も又、右書類と共に本件自動車の引渡を受け代金の決済をした。

ところで自動車販売業者間においては中古自動車の販売に当っては当該自動車が業者間を転々とする間は自動車原簿に一々その所有権の移転を登録することなくその登録に必要なる一切の書類が完備していればその書類と共に自動車が取引されることは業者間における一般の商慣習である。

従って前述のとおり、所有権移転登録に必要なる一切の書類と共に自動車を引渡したときは右商慣習により、所有権留保の売買であっても通常の売買とみなされ所有権は移転している。従って被告は前記売買により適法に所有権を取得した。

(3)  仮に右商慣習の主張に理由がなく、原告から訴外会社に所有権が移転していないとしても、被告は前占有者である訴外五味礼三から中古自動車の取扱業者間の前記商慣習に従い平穏、公然、善意、無過失に本件自動車を買受けその引渡を受けたものであるから民法一九二条によりその所有権を即時取得した。

すなわち、本来自動車そのものは動産であるが、道路運送車輛法第五条に基き登録が第三者に対する対抗要件となり即時取得の動産とは別個のものとして取扱われるが、その所有者自身において所有権移転登録に必要なる一切の書類と共に当該自動車を第三者に引渡したときは自ら登録に基く、法益を抛棄したものであってこの場合当該自動車は本来の動産に立帰り、民法の即時取得の法理が適用される。

と述べ(た。)証拠≪省略≫

理由

一、(一) 原告が本件自動車を所有していたことは当事者間に争いがなく、又、≪証拠省略≫を綜合すれば、その余の原告主張の請求原因第(一)ないし第(三)項の事実(ただし訴外会社において営業の目的使用するとの事実を除く)を認めることができる。

そして≪証拠省略≫を綜合すれば被告主張のとおり、原告はその主張のとおり所有権留保の約定で売渡したものであるが、被告主張の所有権移転登録に必要な書類を交付したため、以後中古自動車取扱業者の常として原告が交付した所有権移転登録に必要な書類を付したまま訴外会社から訴外銭谷政美に、訴外銭谷政美から訴外五味礼三に、訴外五味礼三から被告に各譲渡されたものであることが認められる。

以上の認定を左右しうる証拠はない。

(二) そして右事実によると、形式的に見れば、原告と訴外会社との間の売買は所有権留保付売買であり、代金の支払がなされなかったのであるから訴外会社に所有権移転の事実は認められず従ってその以後の取引は無権利者間の売買であって所有権を移転することはないと言わなければならない。

二、よって、次に被告の抗弁について判断する。

(一)  商慣習の抗弁について

被告は自動車販売業者間において中古自動車の販売に当っては当該自動車が業者間を転々とする間は自動車原簿に一々その所有権の移転を登録することなくその登録に必要なる一切の書類が完備しておればその書類と共に自動車が取引されることが業者間の一般の商慣習であることを理由として所有権留保の売買であっても通常の売買とみなされ所有権は移転する旨主張するが、前記の如き取引がなされることと、所有権留保の売買契約によっても所有権が移転することとみなされると言う事とは重大な差異があり、≪証拠省略≫によると被告主張の如き取引もなされていることは認められるが所有権留保の売買契約をしても所有権移転登録に必要な書類を交付すれば、所有権が移転したものとみなされるなどの商慣習は本件に顕われた全証拠によってもこれを認めることはできない。従って右抗弁は採用できない。

(二)  即時取得の抗弁について

即時取得は占有に公信力を認め前主の占有を信用したものを保護する制度であるから、権利の表示が占有以外の方法で公示される場合、たとえば登記登録によって表示される動産については即時取得の要件たる動産から除かれることは一般に認められるところであり、当事者間にも争いのないところである。

ところで被告は原告が訴外会社に本件自動車を売渡した時、所有権移転登録に必要なる一切の書類を交付したことをもって自ら登録に基く法益を抛棄したものであるから即時取得の適用を受ける動産として取扱われると主張するが、前記認定の事実によると一応自ら登録に基く法益を抛棄したことは認められるがそれは自己の交付した所有権移転登録に必要なる一切の書類を行使し、それにより登録されて対抗要件を喪失するなど、右書類を交付しこれを行使したことにより直接発生する権利の行使を妨げない趣旨のものを意味し、これが直ちに右範囲以上を越えて民法上規定する特別の法律要件である即時取得の動産として取扱われることになるまでの強い意味をもつものではないと解するので爾余の点を判断するまでもなく、右即時取得の抗弁もまた採用できない。

三、以上の事実によると、原告は本件自動車の所有者というべきところ、被告において現にこれを占有していること当事者間に争いがないところであり、他にこれが占有権限につき主張、立証のない本件においては不法に占有しているものと言わなければならない。

四、よって原告の本訴請求はすべて理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条仮執行の宣言について同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 三宅純一)

〈以下省略〉

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